ホラムゲン

先に消える灯

暗い巨大倉庫の棚沿いに奥へ続く靴跡

【第七物流棟・夜間作業チャット】 【参加者:三浦/遠隔管理・杉野】

02:13 三浦 C通路に入ります。端末は左手。棚卸し開始。

02:13 杉野 了解。C-24まで確認お願いします。

[補足1:C通路は全長312メートル、幅3.2メートル。両側は高さ九メートルの固定棚。]

02:15 三浦 杉野さん、ここ、誰か先に入りました?

02:15 杉野 今夜は三浦さんだけです。どうしました。

02:16 三浦 照明が先まで点いてます。 自分の上だけじゃなくて、C-10くらいまで。

[補足2:通路照明は人感式で、感知範囲は一区画先まで。無反応状態が90秒続くと、入口側からではなく点灯した区画ごとに消える。設備試験では異常なし。]

02:17 杉野 搬送機の余熱感知かもしれません。床に動いている物は?

02:17 三浦 ないです。 音もしません。冷蔵棟の低い音だけ。

02:18 三浦 足跡あります。

02:18 杉野 靴跡ですか。向きは?

02:18 三浦 奥向き。一人分。 埃の上に、ずっと。

[補足3:C通路は前日夕方に自走清掃機が通過している。ただし棚脚から約40センチの範囲は清掃ブラシが届かず、薄い埃が残る。写真に写った靴跡はその埃の帯を選ぶように続き、右足だけがやや外を向いている。]

02:20 杉野 写真を送ってください。

02:20 三浦 送信しました。 右かかとに斜めの欠けがあります。

02:21 杉野 よくある安全靴の模様に見えます。

02:21 三浦 自分のも欠けてます。 今、落ちてた平たい段ボールを床に置いて踏みました。 同じ位置です。

[補足4:添付画像は二枚。先行する跡の右かかとには幅約二センチの斜めの欠損があり、段ボール上の三浦の靴跡にも同じ欠損がある。三浦は一週間前、荷受け場の金具を踏んで靴底を傷めたと交換申請を出していた。支給靴の記録上、同じサイズ、同じ箇所に傷のある靴はない。

なお、段ボールはC-8の棚前で撮影されている。先行する跡は段ボールを避けず、その下にも続いていたため、段ボールが置かれたのは跡がついた後と判断された。]

02:23 杉野 いったん戻れますか。

02:23 三浦 C-12まで来ました。 入口よりC-24の防火扉の方が近いです。 そのまま抜けます。

02:24 三浦 先の跡、ラベルのロールを避けてます。 ロールは立ったままです。通れる幅はあります。

02:24 杉野 触らず進んでください。

[補足5:ラベルロールは直径28センチ。C-15の通路中央から右へ約70センチの位置に立っていた。先行する靴跡は、その手前二歩から左へ曲がり、ロールを半円状に避けて元の線へ戻っている。

固定カメラでは、02:26:11に三浦の右肘が棚から垂れた梱包ひもへ触れたことが確認できる。ひもに引かれた小箱が傾き、そばのラベルロールが通路中央へ転がった。三浦は左手に端末を持ったまま右手で小箱を棚へ戻し、倒れたロールを左から避けた。その三歩は、到着時から床にあった跡と重なっている。

三浦が02:24に見た時点では、ロールはまだ倒れていない。画像にも直立した状態で写っている。]

02:27 三浦 今ロール倒しました。

02:27 三浦 跡の通りに歩いたみたいです。

02:28 杉野 止まってください。こちらから迎えを出します。

02:28 三浦 止まりました。 でも先の照明が点いたままです。

02:29 三浦 C-20、消えました。

02:29 三浦 C-21も。 奥へ向かって順番に消えてます。

[補足6:照明制御記録では、C-20は02:29:04、C-21は02:29:17、C-22は02:29:31に消灯している。各区画のセンサーが最後に反応した時刻は、そのちょうど90秒前だった。三浦はその間、C-16で停止している姿が固定カメラに記録されている。

チャットの保全作業では、もう一つ確認事項が生じた。このログは三浦が入棟した02:13に自動生成されたものではない。サーバー上の最初の保存時刻は02:02で、当時すでに[補足1]から[補足5]までの文章領域が確保されていた。文字列も現在のものと一致する。補足の作成者欄は空欄で、通常付く編集履歴もない。

[補足5]に記された02:26:11の映像は、その時点ではまだ撮影されていなかった。]

02:31 杉野 照明の消える方へ進まないでください。入口へ戻って。

02:31 三浦 戻ります。 足跡を踏まないようにします。

02:32 三浦 無理です。

02:32 杉野 何が見えますか。

02:33 三浦 帰り向きの跡もあります。 今まで自分が立ってたところから始まってます。

[補足7:回収後の床面写真では、C-16から入口方向へ向かう靴跡が確認された。往路の跡と同じく右かかとに斜めの欠けがあり、棚脚側の埃の帯を通っている。三浦は帰路、この跡を避けようとして通路中央を歩いたため、二本は明確に分かれている。

遠隔管理員が入口からC通路へ到着したのは02:36。三浦はC-12付近で合流し、そのまま退棟した。負傷はなく、左手には端末を持っていた。端末の送信画面には02:33までの本文と、当時はまだ管理側に表示されていなかった[補足6][補足7]が表示されていたという。

翌朝、清掃前に測定したところ、入口へ戻る先行跡はC-3で棚側へ寄り、そこで途切れていた。棚と壁の隙間は18センチ。人が抜けられる幅ではない。付近に扉や床下点検口はなく、埃には膝や手をついた跡もなかった。

この記録には、02:36の送信枠がもう一つ残っている。送信者は三浦、端末番号も一致するが、本文は空白のまま保全されている。三浦の端末は02:34に通信圏外へ移行しており、再接続したのは管理員と合流した02:37だった。

C通路の照明は、02:34から入口へ向かって一灯ずつ消えている。]

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