ホラムゲン

サービス棚

旧返却口の壁と貸出伝票が残る無人の個室

【音声メモ書き起こし/2021年9月14日】

0:12 これ、後で店長に聞く。休憩室の棚をどかしたら、前のレンタルビデオ店の伝票が出てきた。ここ、居抜きだったから。

会員名、中里絵里。二〇一七年十一月から、同じ映画を十一回借りてる。返却は毎回、閉店後。備考欄に「サービス棚」。そんな棚、見た覚えがない。

1:03 元店員の坂口さんに写真を送った。すぐ電話が来た。

「まだ絵里ちゃんのこと調べてるの」って。

俺は調べてない。名前も知らない。そう言ったら、長く黙ってから、「一緒に住んでたでしょ」と言われた。

2:41 昔のスマホを充電した。写真はない。連絡先にもいない。でも予測変換で「えり、牛乳」「絵里、鍵」と出る。

坂口さんは、あの人が消えた晩、俺も店にいたと言う。裏口で倒れて、三日後に病院で目を覚ました。そこから俺だけ、話が通じなくなったらしい。

3:18 伝票を重ねると、貸出時刻が全部23時48分。店の電源を落とした後、主任が彼女の会員証で処理していた、と坂口さんは言った。来店が続いているように見せるために。

サービス棚は棚じゃない。返却口の奥、台車を置く場所を、主任たちがそう呼んでいた。

ここは来月、取り壊される。

4:06 今、十八番ブースにいる。壁の向こうが旧返却口だ。空調が切れるたび、紙コップの底が小さく鳴る。

知らない人のことなのに、壁まで何歩か、昔から知っていた気がする。

【書き起こし担当者追記】

解体工事で旧搬入口の床下から中里絵里氏の遺留品が発見された。元主任は、傷害と隠匿、貸出履歴の偽装を認めている。録音者には当時の頭部外傷の診療記録があり、記憶障害との整合性も確認された。

ただし十一件目の貸出処理は、店舗の電力契約が終了した翌日の日付になっている。元主任は、その一件だけは知らないと供述している。

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