ホラムゲン

受領時刻

雨に湿った七階廊下と閉じた708号室

本件の配達は、まだ完了していない。

【現地調査報告書】 受付番号:D-417 対象:集合住宅七階・708号室前 調査時刻:21時40分から22時38分 調査員:一名 天候:小雨

【申告内容】

19時12分、配達員よりサポート窓口へ連絡。注文品を708号室前へ置く直前、室内側から「保温バッグのファスナーを開ける音」「紙袋を床へ置く音」「撮影時のシャッター音」が、この順で聞こえたとのこと。

配達員は廊下に自分以外の者がいないことを確認。その後、通常どおり保温バッグを開け、紙袋を置き、配達完了写真を撮影した。先に聞こえた三音は、いずれも自分が立てた音と同じだった、と説明している。

注文アプリ上では、写真の送信直前に通信エラーが発生。再送せず建物を離れたため、処理上は未完了となっていた。注文者からの問い合わせはない。

【建物状況】

一階管理室で許可を受け、管理担当者とエレベーターで七階へ移動した。床は灰色の長尺シート、壁面は薄いベージュ。照明は七階に六灯あり、消灯および明滅なし。雨天のため、外廊下の手すりと床の端が湿っていた。

708号室はエレベーターから右へ十八メートル。途中に曲がり角はない。隣室との間隔、扉の寸法、避難階段までの距離に図面との差異は認められなかった。

注文者は外出中で、室内への立ち入りは不要との回答を管理室経由で得た。管理担当者は21時52分に一階へ戻った。以後、七階には私一名のみ残った。

【予備観察】

21時56分、708号室前でエレベーターの到着音を聞いた。振り返った時点で階数表示は「5」。表示は「6」「7」と進み、扉が開いたのは22時00分ではなく、記録用時計で21時56分14秒後だった。

かご内は無人。呼出ボタンを押した者もいなかった。扉は通常時間で閉じ、一階へ戻った。

録音を確認したところ、到着音は21時56分03秒、扉が開き始めた際の機械音は21時56分17秒に記録されている。差は十四秒だった。

【再現試験】

持参した空の保温バッグ、未使用の紙袋、業務用端末を708号室前の床に置いた。行動を先読みしないよう、「ファスナーを開ける」「紙袋を置く」「写真を撮る」「呼出ボタンを押す」と記した四枚のカードを裏返し、時刻を確認せず一枚ずつ選んだ。

第一試行。カードをめくる前、扉の向こうで短くファスナーが走った。選んだカードは「ファスナーを開ける」。指示どおり実行した。録音上の二音の間隔は十四秒。

第二試行。紙の底が床に触れる音を先に確認した。選んだカードは「紙袋を置く」。同じ場所へ置いた。間隔は十四秒。

第三試行では、カードへ手を伸ばした時点で電子シャッター音がした。音量は小さかったが、扉ではなく、私の右手にある端末の位置から聞こえた。画面は点灯しておらず、撮影履歴にも画像はなかった。

十四秒後、選んだ「写真を撮る」に従い、床の紙袋を撮影した。シャッター音は先ほどと同じ音量、同じ位置から聞こえた。

第四試行は中止した。呼出ボタンを押す必要はないと判断し、カードを伏せたままバッグへ戻した。

その直後、室内側から呼出音が一度鳴った。708号室の呼出音は廊下では鳴らず、通常は室内でのみ鳴る型式である。私はボタンに触れなかった。十四秒経過後も、同じ音は発生しなかった。

【追加観察】

22時23分、器材を片づけて立ち上がった際、扉の向こうから三回のノックを聞いた。等間隔で、強くはない。応答せず、廊下中央まで下がった。

十四秒後、録音状態を確かめるため、私は端末を持った右手の指関節で扉を三回たたいた。行った後で、回数と間隔が先ほどの音に一致していたことに気づいた。録音では双方の間隔が十四秒となっている。

以後は意図した動作が試験結果に影響すると判断し、22時30分に撤収を開始。紙袋を畳み、保温バッグに収め、端末を上着のポケットへ入れた。両手が空いた状態でエレベーター前へ移動した。

呼出ボタンを押す前に、背後でファスナーの開く音がした。

続いて、紙袋を床へ置く音、電子シャッター音、室内用の呼出音が一度ずつ聞こえた。順序は配達員の申告と一致する。振り返ったが、708号室前に物はなく、扉も閉じていた。

その場で十四秒待機した。私は保温バッグを開けず、紙袋も出さず、撮影もせず、呼出ボタンにも触れなかった。先行した音に対応する動作は発生しなかった。

22時38分、エレベーターへ乗った。扉が閉じる直前、708号室の錠が外れる音を聞いた。廊下を確認したが、扉は閉じたままだった。安全上の理由から降車せず、一階へ移動した。

本報告書の作成中、回収した録音の末尾を再確認した。私がエレベーターへ乗った後も、七階の録音機には廊下の音が残っている。錠の外れる音から十四秒後、扉が開く音が入っていた。

その後に足音はない。ただ、紙袋の持ち手が擦れる音と、端末を床近くへ構えた際に衣服が鳴る音が続く。最後の電子音は、配達アプリで完了処理を送信した際のものと同型だった。

録音機は22時45分、管理担当者が回収した。708号室前に紙袋はなく、扉も施錠されていたとの報告を受けている。

本件の配達は、まだ完了していない。

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