員数訂正票

事故・異常事案報告書(再提出)
提出日 平成十一年十一月十八日 事業所 遊技場パル柳瀬店 作成者 副店長 榊 和彦 発生日 平成十一年十一月十二日 発生時刻 午後十時五十五分から翌午前零時十八分まで
一、報告理由
十一月十二日深夜、柳瀬町総務課から当店の閉店時在場者数について照会があった。翌十三日に回答済みだが、町側記録と当店勤務表の人数が一致せず、火災保険代理店からも事故の有無を文書で確認されたため、本報告書を作成する。
先に提出したものは下書きと人数が違うとの指摘を受けた。以下は閉店チェック表、タイムカード、両替機精算票、当夜に受信したファクシミリ原稿を照合して書き直したものである。
人的被害、物的被害ともになし。
二、当日の勤務者
遅番は私、榊和彦とアルバイトの松尾博之の二名であった。
営業時間は午後十一時まで。午後十時以降、十八歳未満と思われる客には順次退店を願った。午後十時四十七分、最後の客二名が退店した。松尾が入口を確認し、私はカウンター内で売上げを集計した。
午後十時五十五分に表側の自動扉を停止し、手動錠を掛けた。以後、通用口を含め人の出入りはない。鍵は私が腰のキーホルダーに付けていた。
三、町内放送原稿について
午後十時四十八分、事務室のファクシミリが一枚受信した。
当店の入る柳瀬ショッピングセンターは屋上に町内放送の中継スピーカーがあり、災害時協力施設にも指定されている。閉店後は館内アンプを町の回線に切り替える取り決めだった。その関係で放送試験の原稿が管理事務所へ届くことがある。当夜は管理人が休みで、同一回線の当店に転送されたらしい。
原稿の表題は「住民実数確認訓練 最終放送案」。内容は次の通りだった。
〈本日実施しました住民実数確認訓練にご協力いただき、ありがとうございました。各世帯の在宅者数について、未確認の方が一名おります。確認が済むまで、そのままお待ちください〉
町の訓練は翌週と聞いていたため、誤送信と判断した。緊急性はないと考え、原稿を裏返して閉店時の筐体数を記入した。
稼働六十七台、故障札二台、電源停止済み三十一台。
この数字は前回報告書にも同じであり、差異はない。
午後十一時二分、二枚目を受信した。最初の原稿とほぼ同じだが、「各世帯」が「各施設」に、「在宅者」が「在場者」に直されていた。「未確認の方が一名」はそのままだった。
松尾が町役場へ電話したが、夜間窓口は話し中だった。私の携帯電話からも掛けた。その際、松尾の携帯が鳴った。本人が数字を入れて作ったという流行歌の着信音だったので、時刻を覚えている。相手は森川からで、両替機三号の鍵をどこへ戻すかという確認だった。
四、閉店作業
午後十一時五分、店内照明を半分消灯した。筐体の画面だけが残るため、床の硬貨や忘れ物は通常どおり懐中電灯で確認した。
松尾は灰皿と椅子を整頓し、森川は両替機三号およびメダル貸出機の残高を記録した。私はカウンターで五百円硬貨と百円硬貨を金種別に袋詰めした。
午後十一時十三分、館内スピーカーから町内放送の冒頭チャイムが一度鳴った。放送本文は流れなかった。音量は小さく、屋外用回線の試験音が館内アンプへ入ったものと思う。
午後十一時二十分、ファクシミリが三枚目を受信した。
表題は「営業所実数確認 訂正稿」。本文では「各施設」が「各営業所」に、「在場者」が「勤務者」に直されていた。末尾には手書き風の活字で「柳瀬三丁目、遊技場一、報告二、確認三」とあった。
この時点で私は町役場の数え間違いだと思った。松尾も同じ意見だった。森川は、こちらが二人で閉店したことになっているのではないか、と言った。
当初提出した報告書で、この発言者を松尾と記したのは私の誤りである。松尾は自分ではないと言っており、森川も自分が言ったと認めている。
午後十一時二十八分、全筐体の電源停止を確認した。故障中の二台は主電源を切ってあった。店内に客はいなかった。トイレ、倉庫、写真シール機のカーテン内も確認した。
午後十一時三十四分、売上金を金庫に収納した。精算票の担当者印は榊、松尾、森川の三名分がある。森川の印は朱肉が薄く、数字の「六」にも見えるが、本人の私印と照合済みである。
午後十一時四十一分、四枚目を受信した。
〈確認されていない勤務者が一名おります。事業所内の機械、設備、従業員を改めてお確かめください。確認されたものは現在数に加え、確認されなかったものは前回数から除いてください〉
通常の行政文書としては言い回しが不自然だったが、訓練用の仮原稿と考えた。業務に支障はなく、三人で閉店チェック表を再確認した。
五、退店後
午後十一時五十八分、三名とも通用口から退出した。施錠は私が行い、松尾が扉を引いて確認した。森川は裏手駐輪場に自転車を置いていた。
松尾と森川は、駅前の二十四時間営業のネットカフェへ行った。森川の個人ホームページの掲示板に、十三日午前零時二十六分付で松尾の書き込みが残っている。
〈閉店おつかれ。役場の放送、店の中だけ聞こえたの変だったな〉
続いて午前零時三十二分、森川名義で次の返信がある。
〈外では鳴ってなかったらしい。俺の人数が決まってよかった〉
森川は「勤務人数が確定してよかった」という意味だったと説明している。掲示板の管理用パスワードは本人しか知らず、接続記録も同ネットカフェの端末番号と一致した。
私は寄らずに帰宅した。娘が熱を出しており、妻から携帯へ二度連絡があったためである。森川は昨年も娘の発熱時に遅番を代わってくれた。今回の件で彼の勤務を否定するような書類を書くことには抵抗がある。
六、人数不一致について
当夜の勤務表は三名分ある。タイムカードも三枚あり、森川の入店時刻は午後四時五十九分、退店時刻は午後十一時五十九分となっている。
ただし、午後十時五十五分に私が閉店チェック表へ書いた「残客〇、従業員二」の筆跡は私のものである。消した跡や書き換えはない。
防犯用の録画装置は設置していない。店内写真は、森川が自分のホームページに載せるため午後九時頃にデジタルカメラで撮ったものが三枚ある。人物は写っていないが、カウンター内にマグカップが三個ある。青いものは私、白いものは松尾、黄色いものは森川が以前から使用していた。
本社の人事台帳では、森川修一は平成八年四月採用となっている。当店の開店は平成九年二月だが、開店準備室からの雇用として矛盾しないとの回答だった。一方、開店準備室の名簿は二名で、私と松尾の名前しかない。
町役場へ問い合わせたところ、森川の住民登録は柳瀬町発足時まで遡って存在し、転入・出生のいずれの届出もないという。町側は古い台帳から電算入力した際の欄ずれを疑ったが、紙の台帳にも同じ氏名があった。
本人の運転免許証、健康保険証、雇用保険被保険者証は有効である。携帯電話の契約は平成九年六月。個人ホームページは平成十年三月開設で、掲示板には開設当日から知人らの書き込みがある。松尾も私も、その頃から閲覧していた記憶がある。
町内放送原稿の四枚目は、十三日朝まで事務室のファクシミリ受けに置いた。午前九時に確認した際、末尾の文は次のように変わっていた。
〈確認された勤務者は住民数に加えました。未確認はありません〉
感熱紙のため熱による変色はあり得る。ただし同じ場所に保管した一枚目から三枚目に変化はない。
原稿は町総務課職員が回収した。町は四枚とも作成しておらず、夜間の送信記録もないとしている。当店ファクシミリの受信記録には、町役場代表番号が四回印字されている。
七、結論
当夜、事故は発生していない。閉店時の勤務者は三名であり、全員が正常に退出した。設備、現金、鍵の紛失もない。
最初の閉店チェック表に「従業員二」と記載した理由は不明だが、単純な記入ミスと判断する。本社の指示により二を三へ訂正し、訂正印を押した。
なお、町からは当店の確認報告によって住民実数が一名増えたとの説明があったが、営業所の勤務人数と町の人口は本来無関係である。町村合併準備に伴う集計上の問題と思われる。
以上。
添付資料七 柳瀬新報 平成十一年十一月二十一日朝刊切り抜き
「合併前人口、一人増で確定」
来春の三町合併を前に進められていた住民台帳の照合作業で、柳瀬町は二十日、町人口を従来発表より一人多い二万一千四百七人に訂正した。
町によると、十二日夜に実施した防災無線回線の更新試験後、住民実数と電算台帳に一人分の差が生じた。該当者は町内在住の二十一歳男性で、住民票、納税記録、保険加入記録、勤務実績のいずれも確認された。生活上の不利益もなく、本人からの申し立てもないという。
一方で出生届や転入届は見つかっていない。旧様式の住民台帳には幼少時から記載があり、町は「長期間にわたり集計から漏れていた可能性が高い」として訂正した。
防災無線から営業施設へ送られたとされる原稿について、町総務課は作成と送信を否定している。回線更新を担当した業者も、文章を自動作成する機能はないと回答した。
町は合併後の新自治体に訂正後の数字を引き継ぐ。訂正前の二万一千四百六人という数字が、どの一人を数えなかったものかは確認できないとしている。