ホラムゲン

庭木のかたち

夕暮れの高い漆喰塀と、その下に積まれた三つの石

一

父が工場の夜勤に回ってから、家の時間はラジオで決まった。朝の体操、七時の報せ、八時の演芸。母は配給の切符を帳面に貼りながら、音の切れ目にふと顔を上げる癖がついた。

町内の北のはずれに、漆喰の高い塀がある。山鼻という家の塀で、中は空き家だと皆が言った。それでも庭の木の形が、月ごとに変わる。

九月十二日、市の図書館で『海のいきもの』を借りた。本の後ろに貼った貸出カードに、受付の人が名前と日付を書いてくれる。書き終わるのを待っていたら、二行下にもう僕の名前があった。鉛筆で、九月十七日と添えて。受付の人は眼鏡を上げて、前に借りた人の字でしょうと言った。鈴木栄一は僕だけだ。

帰りに塀の貼り紙を見た。防空の当番表の隅に、細い字で一行あった。十七日午後三時、塀の下、石を三つ。僕の名前。

十七日は積まないつもりだった。三時に塀の前を通って、足元に石があって、積まないと家に帰れないような気がして、三つ積んだ。

二

次の月、同じ本をまた借りた。借りる前に、カードを見せてもらった。僕の名の上に十六人いる。日付を数えると、庭木の形が変わった月にそろって重なる。三人は顔を知っている子で、みな転校していった。

受付の人は、このカードは一度も作り替えていないと言った。背を直し、表紙を替え、それでもカードだけは最初のままだと。

僕が積んだ石は、翌朝には塀の内側にあった。三つ。門の隙間から、そこだけ草が刈られているのが見えた。

当番表の貼り紙は、月の終わりに新しいものに替わる。替わったあとの隅にも、細い字の一行があった。読まずに帰った。

十年後、焼け跡の整理であのあたりへ行った。塀は残っていた。中の区画だけ焼けず、人の背ほどの草が立っている。市の図書館は焼けたが、貸出カードの束が一つだけ別の棚にあって助かったという。『海のいきもの』のカードも入っていた。十六人の下に僕の名があり、その下に、まだ何も書かれていない行があった。

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