同じ音

労務管理上の欠損に関する報告 昭和四十三年十月二十八日
当月二十四日早朝、第二工場タイムカード保管庫において、従業員番号三九四番から四〇一番までの八名分、計五日分の打刻記録が欠落していることが判明した。カード自体に破損や改竄の痕跡はなく、当該期間の出勤実績との照合も不可能である。
遡って二十三日夜、同番号帯の従業員が居住する北港第三団地管理人より、「住人から苦情が相次いでいる」との連絡を受けていた。内容は特定できず、いずれも「気になる」「揃いすぎている」といった曖昧な表現に終始した。
十月上旬、同団地の外廊下において、集合ポストの開閉音が午前五時四十分前後に集中していたことを複数の住人が証言している。該当する八名は全員が同一シフトに属し、出勤時刻もほぼ一致していた。ただし、これは偶然の範囲である。
九月末時点では、打刻記録に異常はなかった。
本報告作成中、不可解な事態が発生した。下書き原稿三枚のうち、該当従業員の氏名および番号を記した二枚目が所在不明となった。複写も残っていない。管理人への聴取記録も、いつの間にか書庫から抜け落ちている。
住人たちに改めて確認を試みたが、「そんな音は聞いていない」と全員が答えた。集合ポストの音について尋ねても、誰も覚えていないという。
打刻記録の欠落について、機械的要因は認められない。人的要因も、証拠がない。該当期間の勤怠は、誰の記憶にも残っていない。
報告者としては、何かを書き忘れている気がしてならない。だが、その何かが思い出せない。
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